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仙台地方裁判所 昭和54年(ワ)1114号 判決

原告

徳本秋則

被告

廣瀬泰久

主文

一  被告は原告に対し、金八六万八一六〇円及びこれに対する昭和五一年一二月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その二を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二六五万六六六〇円及びこれに対する昭和五一年一二月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五一年一二月一二日午後〇時一五分頃

(二) 場所 熊本県八代郡千丁町古閑出千丁中学校先交差点

(三) 加害車 普通乗用自動車(熊五五は七七・七四号)

右運転者 被告

(四) 被害車 軽四乗用車(八八熊い七六・〇五号)

右運転者 原告

(五) 態様 右交差点において、原告が、対面信号が赤を示していたので一時停止したところ、被告が後部から追突したものである。

(六) 被告の過失

被告には、信号機を注視してこれに従うとともに前車の動静に注意し、信号機が赤あるいは黄を示しているときはブレーキを踏んで一時停止し、前車に追突しないよう安全を保持すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失がある。

(七) 傷害の部位程度

原告は、右事故により、外傷性頸部症候群、腰部打撲傷、椎管内障、乱視3度痔核、過敏大腸症等の傷害を受けた。

2  原告の損害

(一) 治療費 七八万六八五〇円

昭和五三年一〇月一七日から同年一一月一八日まで入院した分とその後昭和五四年六月まで通院した分の治療費三八万二四六〇円及び昭和五四年一二月二八日から翌年一月二一日まで横浜市松島病院に入院し、昭和五四年一二月から翌年一一月まで宮城県立成人病センター等に通院した分の治療費四〇万四三九〇円の合計。

(二) メガネ代 二万七〇五〇円

本件事故により、両眼の視力が低下し乱視となつたため着用せざるをえなくなつたメガネ代金。

(三) 交通費 四万一二六〇円

昭和五二年二月一五日から同年四月一五日まで及び昭和五三年一一月一八日から同五四年六月一三日までの通院に要したタクシー代、バス代、電車賃の合計。

(四) 文書代 一万五五〇〇円

支払ずみの二五〇〇円を除いたもの。

(五) 休業補償費 二〇万円

原告は、第一貨物自動車に勤務し毎月少くとも二〇万円の支給を受けていたが、本件事故による入院のため欠勤せざるをえなかつた昭和五三年一〇月一七日から同年一一月一八日までの休業補償分。

(六) 慰謝料 一四〇万円

原告は、本件事故により前記傷害を受け、一二五日間入院し、約一年八か月間通院加療した。そのうえ、頭部、腰部等に痛みを残し、視力も低下し、乱視となつた苦痛の日を送つている。

(七) 弁護士費用 一八万六〇〇〇円

3  よつて、原告は被告に対し、右合計金二六五万六六六〇円及び本件事故発生の日である昭和五一年一二月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(五)の事実は認める。

2  同 1(六)の事実は否認する。

3  同 1(七)及び2の事実は不知。原告の下痢症状、昭和五三年一〇月一七日以降の入院は本件事故と相当因果関係がない。

三  被告の主張

被告は、原告に対し直接六二万五三八円、病院等に対し三一万三六〇円支払い、安田火災海上保険株式会社が病院に対し二八万五七四〇円支払つている。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1(一)ないし(五)の事実は当事者間で争いがない。

二  責任

成立に争いのない乙一ないし一二号証、一七、二〇号証によると、請求原因1(六)の被告の過失が認められる。従つて、被告は民法七〇九条に基づき本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  成立に争いのない甲三号証、二六ないし二八号証、証人深松貞博の証言により真正に成立したものと認められる甲一号証、同証言及び原告本人尋問の結果(一、二回)によると、原告は、本件事故により外傷性頸部症候群、腰部打撲傷の傷害を受け、事故当日の昭和五一年一二月一二日から同五二年一月七日まで熊本県八代市の岡川病院に入院し、同日から昭和五二年二月一五日まで同県の国立療養所再春荘に入院し、同年二月一六日から同年四月一五日まで同療養所に通院し、それぞれ治療を受けたこと、原告はその後も頭痛等諸々の症状を訴えていることが認められる。

2  ところで、原告は、昭和五三年一〇月一七日以降の入通院も本件事故と相当因果関係があるものと主張する。そして、成立に争いのない甲六号証、二一号証の一、二二号証、二六ないし三〇号証、三二、三三号証、原告本人尋問の結果(一回)により真正に成立したものと認められる甲四号証の一、二、五号証、一三号証及び原告本人尋問の結果(一、二回)によると、原告は、昭和五三年以降も頭部、腰部等の痛みや下痢などの症状を訴え、各種病院で治療、検査を受けていることが認められる。しかし他方、前記甲六号証、成立に争いのない乙一九、二一号証によると、原告は、昭和五四年四月六日から同年六月二二日までの間東北大学医学部付属病院において各種検査を受けたが、異常はなく、同病院医師船山完一は、事故後の経過、右検査結果等をふまえ、同月四日「二年位前症状固定なり治療終了の処理をはつきりしなければならなかつたと思われる。」との診察検査所見を下していること、国立療養所再春荘整形外科婦長田尻典子も検察事務官の問合せに対して、「原告は一応症状固定したので昭和五二年二月一五日退院した。」旨回答していることが認められ、これらの事実に照して考えると、前記事実から昭和五三年以降の原告の入通院等と本件事故との間の相当因果関係を推認することはむずかしく、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

3  右の認定を前提に、以下、損害について各別に検討する。

(一)  治療費、休業補償費

原告の請求する治療費、休業補償費と本件事故との間の相当因果関係を認めるに足りる証拠はない。

(二)  メガネ代 二万七〇五〇円

前記甲三、二二号証、成立に争いのない甲二号証、原告本人尋問の結果(一回)により真正に成立したものと認められる甲一二号証、証人吉村千尋の証言及び原告本人尋問の結果(一回)によると、本件事故後、原告の視力が低下し、乱視が、ひどくなり、メガネを着用せざるをえなくなつたこと、メガネ代として右金額を要したことが認められる。

(三)  交通費 四万一一一〇円

原告本人尋問の結果(一回)により真正に成立したものと認められる甲一五ないし一九号証、右尋問結果及び弁論の全趣旨によると、原告が本件事故による傷害治療のため要した交通費(昭和五二年二月一五日から同年三月一九日までの分)は右金額であることが認められる。

(四)  文書代

原告請求の文書代が本件事故と相当因果関係にあることを認めるに足りる証拠はない。(甲七ないし一〇号証、三一号証の文書代も相当因果関係にあるものとは認められない。)

(五)  慰謝料 七〇万円

前認定の原告の受傷内容、治療経過等諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は右金額が相当である。

4  損害の填補

右原告の損害に対する填補を認めるに足りる証拠はない。(なお、被告の提出する乙二八号証は昭和五二年二月九日付となつており、右損害に対する填補と認めるに足りない。また、証人真山秀夫の証言(二回)によると、原告に対し慰謝料は支払われていない。)

5  弁護士費用 一〇万円

原告が本件代理人に本訴の追行を委任したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件事案の難易、審理経過、本訴認容額等に鑑みると、弁護士費用の額は右金額が相当である。

四  結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は右合計金及びこれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五一年一二月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野貞夫)

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